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東京地方裁判所 平成元年(ワ)11059号 判決 1991年10月16日

原告(反訴被告。以下「原告」という。)

甲野一郎

甲野春子

原告

甲野二郎

原告ら訴訟代理人弁護士

脇坂治國

堀口真一

被告(反訴原告。以下「被告」という。)

乙川三夫

右訴訟代理人弁護士

藤沢抱一

弘中惇一郎

主文

一  被告は、原告甲野一郎に対し、金二九三七万六三八九円及びこれに対する平成元年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告甲野春子に対し、金二六一五万九八一一円及びこれに対する平成元年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告甲野一郎及び原告甲野春子のその余の本訴請求並びに原告甲野二郎の本訴請求をいずれも棄却する。

四  被告の反訴請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告甲野一郎及び原告甲野春子と被告との間に生じたものは、本訴、反訴を通じてこれを三分し、その一を右原告らの負担とし、その余を被告の負担とし、原告甲野二郎と被告との間に生じたものは、全部原告甲野二郎の負担とする。

六  この判決は、一項、二項及び五項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一本訴請求

1  被告は、原告甲野一郎に対し、金四六三七万二一九三円及びこれに対する平成元年九月一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告甲野春子に対し、金四一五四万五六一五円及びこれに対する平成元年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告甲野二郎に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成元年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二反訴請求

原告甲野一郎及び原告甲野春子は、被告に対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する平成二年四月一一日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件の本訴は、殺人の被害者の遺族である原告らが加害者の被告に対し不法行為に基づく損害賠償を請求している事案であり、反訴は、被告が、被害者に対し委託金の返還請求債権を有していたと主張して、原告らのうち被害者の相続人に対しその返還を請求している事案である。

一争いのない事実

1  当事者

原告甲野一郎(以下「原告一郎」という。)は、亡甲野夏子(昭和二六年三月一五日生れ。以下「夏子」という。)の実父であり、原告甲野春子(以下「原告春子」という。)は夏子の実母、原告甲野二郎(以下「原告二郎」という。)は夏子の実兄である。

被告は、昭和五六年三月二日、夏子と婚姻し、同六〇年一二月一七日協議離婚した。

2  本件不法行為

被告は、昭和六三年三月五日午後六時一七分頃、東京都品川区<番地略>マンション〇〇九〇七号室の夏子方において、殺意をもって夏子の腹部目掛け所携の登山ナイフで刺し掛り、同女に右登山ナイフを奪われるや、さらに所携の牛刀を持って同女を同室のベランダまで追い詰め、悲鳴をあげて助けを求める同女に対して右牛刀で顔面、頸部、胸部等を多数回にわたり突き刺し、同女に額下腺付近の静脈を損傷し、気管、食道前壁を損傷して甲状腺右葉を半ば分離させる前頸部刺切創、第一肋骨、第一肋間、第二肋骨、第二肋間、左肺上葉前縁を損傷し、胸部大動脈左縁を損傷する深さ11.3センチメートルの前胸部刺切創、第四、第五肋間を損傷し、心臓左室前壁を損傷する深さ9.5センチメートルの前胸部刺切創、腹膜を損傷して腹腔内に入り、胃体上部後壁小弯側を損傷する深さ九センチメートルの腹部刺切創など計三九か所にわたる刺切創等を負わせ、その頃、同所において、同女を前記頸部、胸腹部刺切創に基づく失血により死亡させて殺害した(以下「本件不法行為」という。)。

3  相続

原告一郎及び原告春子は、夏子の両親として、各自相続分二分の一の割合で相続した。

二争点

(本訴)

本訴についての争点は、次のとおりである。なお、被告が、原告一郎及び原告春子に対し、本件不法行為につき民法七〇九条ないし七一一条に基づき損害賠償義務を負うことは争われていない。

1 原告二郎の固有の慰謝料請求権の有無及びその額(請求額慰謝料五〇〇万円、弁護士費用五〇万円)。

2 夏子、原告一郎及び原告春子の損害額(請求額合計八七九一万七八〇八円。その内訳は争点に対する判断中に記載のとおりである。)。

被告は、原告ら主張の損害額全般を争い、とりわけ夏子の逸失利益については、原告ら主張の夏子名義の生前の収入のうち、作詞の印税及び二次使用料収入は、作詞が被告単独であるいは夏子と被告との共同でなされたものであるから、夏子にそのすべてが帰属するべきものでなく、従って右収入金額を基礎として逸失利益を算定するのは相当でないと主張している。

(反訴)

被告の委託金返還請求権の有無

被告は、被告単独であるいは夏子と共同で作詞を行ない、その印税及び二次使用料収入の管理を夏子に委託していたが、夏子が被告と離婚、別居するにあたり、少なくとも合計四〇〇〇万円以上あった右受託金のうち、二分の一以上は被告が返還請求権を有する固有財産であるにもかかわらず、その清算をせずに持ち去ったとして、右の管理を委託した金員の内金一〇〇〇万円につき、夏子の相続人である原告一郎及び原告春子に対し、それぞれ五〇〇万円の支払いを求めている。

これに対し原告一郎及び原告春子は、作詞はすべて夏子の創作であったとして右主張を否認するとともに、仮にそうでないとしても被告は右委託金の返還請求権を離婚直後に放棄した旨あるいは被告の主張する請求権は財産分与請求権であって、昭和六〇年一二月一七日の協議離婚から二年を経過した昭和六二年一二月一八日をもって民法七六八条二項の除斥期間が経過し、消滅した旨主張している。

第三判断

一本件不法行為に至る経緯等

証拠(<書証番号略>、原告春子、被告)によると、本件不法行為に至る経緯等につき、以下の事実が認められる。

1  夏子は、昭和四二年、松江市の高校を中退して上京し、西野バレエ団に所属して、江美早苗の芸名で芸能界入りし、ダンサー、歌手として活動していた昭和四六年ころ、レコードの製作、宣伝等のプロデュース業務に従事していた被告(昭和一二年一〇月二七日生)と知り合い、昭和四七年三月ころには、情交関係をもつに至った。被告には、当時妻と一人の子供がいたが、被告の妻は被告と夏子との関係を悩んで同年四月に自殺してしまった。その後、昭和四八年ころから、被告と夏子は同棲するようになり、昭和五六年三月には婚姻届を出して正式な夫婦となった。

2  夏子は、被告と同棲した後、被告の助力のもとに中里綴のペンネームで作詞家として活動するようになり、いくつかのヒット曲も出した。その後、夏子は、昭和五七年ころからはジャズダンス教室も開き、活動の場を広げていったが、それとともに被告との家庭生活が疎かになり、次第に被告との関係が気まずいものとなって、昭和六〇年ころからは夏子の方から被告に離婚を求めるようになった。被告は、夏子と離婚したくなかったものの、夏子の離婚意思が固かったため、やむなく同年一二月に離婚した。

3  被告は、夏子と離婚した後も、夏子に対する未練を断ち切れず、他方仕事の方も思うようにいかなかったため、次第に夏子によって家庭生活を破壊され、その挙げ句に裏切られたと思うようになって、夏子に対する憎悪を深めていったが、偶々、昭和六三年三月二日ころの夜中、夏子から電話があり、「いい加減にして」と言い放って切れたことから、夏子に対する憎悪の感情を押さえ切れなくなり、夏子を殺して自分も死ぬしかないと思い詰めるに至り、同月五日、本件不法行為に及んだ。

4  被告は、夏子を殺害したことにより、平成元年一月一八日、東京地方裁判所で懲役一二年の判決を受け、現在黒羽刑務所で服役している。

二本訴の争点1について

不法行為の被害者が死亡した場合の近親者固有の慰謝料については、その者が民法七一一条所定の近親者以外の者である場合にも、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視できるような実情があった場合に限りこれを認める余地があるものと解すべきである。しかし、本件の場合には、夏子には両親が健在であって原告二郎が親代りとして夏子を庇護していたような実情があったことを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(原告春子、原告二郎)によれば、原告二郎と夏子は四人兄弟の兄と妹という関係であり、原告二郎が長男で原告一郎の経営していた旅館の後を継いだことなどから、原告二郎と夏子との間には他の兄弟と夏子との関係以上の信頼関係があったことはうかがわれないではないものの、夏子が昭和四二年八月に親兄弟の住む松江市から単身上京して以来、原告二郎と夏子が同居したことはないばかりか、右上京から本件不法行為までの二〇年余りの間に夏子と原告二郎が顔を合わせたのは数えられるほどの回数に過ぎず、その間経済的にもそれぞれ独立していたことを認めることができる。これらの事実からすれば、夏子と原告二郎との間に民法七一一条所定の近親者と同視できるような特別な関係があったとは認めることはできない。従って、原告二郎の固有の慰謝料請求及びそれに伴う弁護士費用相当額の損害賠償請求は理由がない。

三本訴の争点2について

1  葬儀関係費用(請求額東京分一四一万円、松江分一六八万六七六三円) 認容額 一六八万六七六三円

証拠(<書証番号略>、原告春子、原告二郎)によれば、夏子の葬儀は、昭和六三年三月九日に東京の金光教高輪教会で、同年同月一五日に松江市の金光教高松教会で二度にわたり執行され、原告一郎が費用を負担したこと、その費用は、各葬儀ごとにみれば、後記のような夏子の生前の状況に鑑み通常必要と認められるものに限っても、原告主張のとおり前者が一四一万円、後者が一六八万六七六三円を下廻るものではなかったことを認めることができる。

しかし、本件の全証拠によっても、二度にわたる葬儀が本件不法行為と相当因果関係の範囲内にあるものと認めることはできない。すなわち、証拠(<書証番号略>、原告ら、被告)と弁論の全趣旨によれば、夏子は、前記のように、単身上京後死亡するまでの一四年余り東京に住んでおり、この間ダンサー、歌手、作詞家等として東京を社会的活動の本拠としていたが、他方郷里の松江には親族縁者が住み、実家の旅館業は芸能人としての夏子の名とともに知られていた時期があり、一時期は郷里出身の芸能人として地元でも大いに期待されていたことを認めることができる。しかし、右事実だけでは、未だ東京と松江で二度葬儀を執行するのが相当であったとまでは認め難く、原告春子がその必要性について供述するところも右認定判断を左右するに足りるとはいえない。そして、以上の認定によれば、本件不法行為と相当因果関係のある葬儀費用としては、金額の大きい松江分の一六八万六七六三円に限り認容すべきものと認めるのが相当である。

2  交通費等(請求額九八万七八一五円) 九八万七八一五円

証拠(<書証番号略>、原告春子、原告二郎)及び弁論の全趣旨によれば、原告らは松江市に居住する者であり、被告の本件不法行為により、夏子の遺体の引取りや、身辺整理あるいは警察等に対する捜査協力、被告に対する刑事事件の裁判傍聴のために度々上京することを余儀なくされ、このために原告一郎が要した旅費及び宿泊費等の経費は原告らの請求額のとおりと認められる。被告は、刑事事件の捜査協力のための上京の費用は本件不法行為と相当因果関係がない旨主張するが、本件不法行為は殺人であって、遺族が求められて捜査に協力することは通常の事態であるから、その費用は相当因果関係のある損害と認めるべきである。また、刑事事件の傍聴費用については、本件不法行為は極めて残忍、冷酷、悲惨で特異な事案であり、原告ら遺族が刑事事件を傍聴することによりその被害感情を示しかつ真相を知ろうと願うことはごく自然のことということができるから、右費用も、本件不法行為と相当因果関係のある損害にあたると認めるべきである。

3  死体検案書代金及び引越代(請求額二四万二〇〇〇円)二四万二〇〇〇円

証拠(<書証番号略>、原告春子、原告二郎)によれば、原告一郎は、本件不法行為により、死体検案書代金一万二〇〇〇円及び夏子の住居の家財道具等についての引越代二三万円の負担を余儀なくされたことが認められる。

4  過失利益(請求額三五六九万一二三〇円) 二一五一万九六二三円

(一) 証拠(<書証番号略>、原告二郎)によれば、夏子は、本件不法行為の日から時間的に最も近接した昭和六二年分の所得税の確定申告において、所得金額として三二六万九八九五円(収入金額は七七三万五三二〇円)を申告していることが認められる。しかし、証拠(<書証番号略>、被告)によれば、右収入の中には前記生前の作詞に係る夏子の著作権使用料収入が含まれその金額は少なくないことを認めることができるところ、著作権使用料収入はその性質上夏子の死亡によっても当然にはなくなるものということができないから、右申告所得額をそのまま夏子の生前の収入額として逸失利益を算出するのは相当でない。そこで、検討するに、夏子は前記のように作詞以外の事業活動もしており、作詞についても相当名が知られており、離婚前は被告の手助けが相当であったとしても夏子自身にその才能がないではなかったと認めることができるから(<書証番号略>、被告)、このようなことに鑑みると、夏子は、本件不法行為により死亡しなければ、控え目にみても、六七歳までの三一年間、夏子の死亡時に同年齢の女子が得ていた平均賃金と同額の収入程度は得ることができたと認めるのが相当である。そして、賃金センサスによれば、昭和六三年の三五歳から三九歳までの全女子労働者の平均年収額は二七六万〇二〇〇円であることを認めることができる。

(二) 他方、証拠(原告春子)及び弁論の全趣旨によると、夏子は被告との離婚後、扶養すべき家族はなく、単身であり、作詞家及びダンサーなどとして芸能界に身を置き、前記の所得により生活をしていたことを認めることができるから、これらの事実及び諸般の事情を総合勘案すると、夏子の前記収入に対して生活費が占める割合は五割であると認めるのが相当である。

(三) 以上の事実をもとに夏子の逸失利益を算出すると、年収金額二七六万〇二〇〇円から生活費割合五割を控除した額に三一年間の稼働可能期間に対応するライプニッツ係数15.5928を乗じると二一五一万九六二三円となり、原告一郎及び原告春子はそれぞれの二分の一である一〇七五万九八一一円の損害賠償請求権を相続したということができる。

5  慰謝料(請求額夏子分三〇〇〇万円、原告一郎及び原告春子固有分各五〇〇万円) 合計二六〇〇万円

争いのない事実2に前示のような本件不法行為の動機、態様等、本件に現われた一切の事情を総合して考慮すれば、本件不法行為により若い命を断たれた夏子並びに実の娘を失った原告一郎及び原告春子の精神的苦痛に対する慰謝料としては、夏子につき二〇〇〇万円並びに原告一郎及び原告春子につきそれぞれ三〇〇万円を認めるのが相当である。そして、右原告らは、夏子の右慰謝料請求債権を二分の一宛相続したことになる。

6  弁護士費用(請求権合計八四〇万円) 五一〇万円

本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、本訴提起時の原価として、原告一郎につき二七〇万円、原告春子につき二四〇万円と認めるのが相当である。

四本訴請求についてのまとめ

以上によれば、原告二郎の請求は二九三七万六三八九円及びこれに対する不法行為後で本件訴状送達の日の翌日である平成元年九月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、原告春子の請求は二六一五万九八一一円及びこれに対する右と同様の遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がない。また、原告二郎の請求はすべて理由がない。

五反訴の争点について

1  この争点に関する被告の供述(<書証番号略>の供述を含む。)の要旨は、次のとおりである。

昭和四八年に被告と同居するようになった夏子は、自宅でできる仕事を探していたところ、被告は以前から作詞を趣味としていて、レコードプロデューサーという仕事柄も作詞と無縁ではなかったことから、夏子に作詞家になることを勧めた。そして、被告が作詞の指導をし、中里綴というペンネームを与え、被告のつてで仕事を回してもらうようになった。しかし、夏子はもともと作詞について全くの素人であったうえ、被告の指導によって必ずしも長足の進歩を遂げず、結局歌の詞として世に出た二二〇ないし二三〇編のうち、半分くらいは夏子が関与せず被告が単独で作詞したもので、その余のものも外国詞の訳詞等の例外を除けばほとんどが被告と夏子の共作であった。

甲野夏子名義の銀行口座に振り込まれる印税等の収入は、被告と夏子の合意により、二人の新しいマンション購入資金に充てるための蓄えとして、夏子が通帳を管理するものとした。

ところが、被告は、夏子との離婚及び別居後、右口座に振り込まれた収入の預金通帳及び印鑑が夏子により持ち出されていることに気付き、昭和六一年一月一六日頃、夏子に対し、その預金総額が五〇〇〇万円に上るものであることを指摘し、その返還を請求したところ、夏子は右預金額及び通帳持ち出しの事実を否定しなかったが、その返還は拒否した。

2  しかしながら、被告は、次のようにも供述している。

右の昭和六一年一月の夏子との交渉の末、被告は、本音としては右預金が欲しく、裁判等により自己の取り分につき権利を行使することも可能であることを認識し、また、夏子に対してそのことを口にしつつも、結局、夫であった男として、これ以上の紛争を避ける意味でも、右の預金につき被告の権利を主張することは断念し、その旨夏子に伝えて交渉を終えた。

3  右の供述によれば、仮に作詞による収入について被告の主張するような委託関係があったとしても、被告は、その主張のような返還請求権を自ら放棄したことが明らかである。なお、右供述に加えて、以下の事実を考え合わせると、右放棄の意思表示は離婚に伴う財産関係の清算のひとつとしてなされたものと考えられる。すなわち、被告は作詞を職業としていたわけではなく、また自らの作品を公表したこともなく、中里綴名義の作詞が売れるにつき、どれほど被告の寄与があったかは必ずしも定かでない。また、被告の供述によれば、作詞による収入としては、夏子名義の口座に入金されたもののほか株式会社日音を経由して被告ないし被告の経営する唱歌村塾名義の口座に入金され、被告の管理下に置かれたものもあり、こちらの分は、昭和六〇年六月の入金分までの著作権二次使用料だけで九四四万六一二七円に上っており、そのほかにこれを上廻るほどの印税収入もあったというのである。そして、夏子と被告が協議離婚するに際しては、他にあらたまって財産分与等の協議がなされた形跡はないから、右の昭和六一年一月の夏子と被告との交渉は、両者の間の財産関係の清算としての意味を持っていたと考えることができるのである。

4  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、被告の反訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官加藤英継 裁判官大橋弘 裁判官村田斉志)

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